数奇者(すきもの)愛聴のドラッグ・バンド」を超えろ!

―The Warlocks 『Songs From Pale Eclipse』評―

2016/09/05


2016/09/24 写真追加
▲執筆の数日後、注文したCDが到着。


 2016年9月2日、遂に待望の『Songs From The Pale Eclipse』が発売された。LAが生んだ怪物的サイケデリック・ロック・バンドThe Warlocks(ザ・ウォーロックス)の、3年振りにして通算7枚目のフル・アルバムである。
 機材盗難事件があったほか、インタビューで語られてきたように、Cleopatra Recordsという(恐らくは信用に値する)レーベルに腰を落ち着けるまでには地獄のような道程があったことは疑い得ない。しかし、そこに花開いたのは「地獄のような」音楽では決してなかった。

 初めに断っておくと、筆者は彼らの熱烈なファンであり、海外に限定すれば一番好きなバンドだと言って差し支えない。2013年のAustin Psych Fest(現・LEVITATION)では彼らのLIVEを最前で見る機会に恵まれ、ヘタクソな英語で「日本から来たんだ!」と言ってメンバーからセットリストの紙を受け取ったというアツい自慢話さえある。
 それゆえ、ヨーロッパ各都市では頻繁にツアーが行われ会場がオーディエンスで埋まっている一方で、国内においては来日の気配などは皆無であるという、彼ら(を初めとする現代ネオ・サイケデリア)に対する、メディアやリスナーを含めた日本の音楽界の過小評価に対しては苛立たしい思いが募るばかりである。
 そこで筆者は、もう10年以上前の作品となった『Phoenix』(US盤:2002/UK盤JP盤:2003)と『Surgery』(2005)以外は国内盤が発売されておらず、一部の物好きだけが新作を追っているという、ザ・ウォーロックスを巡る日本の糞ロクでもない現状に一石を投じるべく、筆を執ることを決意した次第である。(……というのは半分真っ赤なウソで、聴き始めた瞬間には勝手にタイピングが始まっていた。作家・元長柾木風に言えば、世界からの要求に答えたのである。)

 注文したCDが中々届かないため、オフィシャルで無料ストリーミング配信が行われている(!)BandcampやYoutubeを使って一足先にフル試聴する運びとなった。一聴して、やはりメランコリックではあるが、かつてないほど率直でスウィートなサウンドに驚かされた。『Rise and Fall』(2001)時代のアコースティックなサイケデリアに回帰したのかとも考えたが、違う。それ以上に純化された、これまでとは質を異にした、「取っ付きやすい」装いをしているではないか。
 まず気付くのは、Bobby Hecksherの声質、これは彼がMCで喋るのを見聴きすれば解るけれども、体格からはあまり想像出来ない、あの色気あるハイトーンを申し分無く活かしたヴォーカルの存在感、そしてそれ以上に、キラキラとしたギター・ストロークの比重が非常に大きいことだ。更には、平均4分程度のものを10曲というオーソドックスな構成は、『Rise and Fall』(1曲目から約14分!)とも、『Heavy Deavy Skull Lover』(2007)、『The Mirror Explodes』(2009)、『Skull Worship』(2013)といった直近の暗黒的な「三部作」とも明らかに一線を画している。
 比較的柔らかになったサウンド・メイキングに脳からとろけそうな甘いメロディ、星々の煌めくようなギターはかつての傑作(問題作?)『Surgery』を想起させるが、あそこまで弱々しく内心を吐露しつつ、幻覚を追体験するかのように底深い内面宇宙へ旅立っていく壮大で神秘的な夢想物語と同質であるとは思えない。無論、ライヴ定番曲の宝庫たる代表作『Phoenix』のような、貪欲にハイになっていく狂乱的ガレージ・ロックンロールの世界でもない。
 ボビーが自らの楽曲に“We Took All the Acid”と名付けてそう歌う時、そこには、かつての”Dope Feels Good”や”Cocaine Blues”に見られたシーンへの悪ノリ的な帰属意識、或いは退廃に身を任せることを好しとするドラッグ賛美を見せびらかす姿勢よりも、飽き飽きするほど味わい尽くした多幸感への満足や還るべき故郷への信頼の念が込められているように思える。「気怠い安息」とでも呼ぶべき感覚だ。

 本作は、一曲一曲はスロウであるかミドル・テンポだが、全体の駆け抜け方は彼らにしては寧ろスピーディーに感じられる。そして、物憂げな表題そのままの情念が、歌いたいままに歌われているように聴こえて来る。「◯◯Jam」と題した長尺曲を録音し続けてきた彼らだが、本作ではその傾向が見られない。また、頭を破裂させんばかりのファズによる歪みの過剰や、生死の狭間を想起させるドロドロのベース・リフレインも、今回は然程強く前面に押し出されてはいない。
 「FLAUNT」というサイトのインタビューでボビーが語るのを読む限りでは、本作は十数年に渡って書き溜めていたデモから完成させたアルバムであるようだ。それなのに、“Demon”や“Zombie”、そして定番の“Skull”といったモンスター的イメージを引っ提げた、いつもの“So Paranoid”と呼ぶほかない“Heavy Deavy”な奈落的情景は何処へやら?そんな訝しい気持ちにさせられる。(尤も、髑髏という象徴は飽くまでオフザケであって狂信めいた何かではないと本人の口から語られてはいるが。)

 前作のどんよりとした曇り空のサウンドがJason Simon率いるストーナー・バンドDead Meadowとの近さを思わせるとすれば、今作は彼のサイド・プロジェクトであるOld Testamentに似た……いや、それ以上の穏やかな空気が全編に漂っている。
 ドラミングは力強くグルーヴィーで、エフェクトは変わらずトリッピーだが(#4では大胆なワウワウを取り入れてさえいる)、どれもこれもメロウに響き渡る「歌」ばかりだ。左右からストロークされるギターは聴き手を飲み込んで遥か彼方に連れ去って行くというよりも、全身にそっと寄り添ってくれるような優しい感触と透明感がある。確かに、元より強烈なバンド・サウンドに圧されて声や言葉の魅力が埋没してしまうようなことは別に無かったし、今作を例えば「SSW的」とまで言い表すことは有り得ないにしろ、「何を前に出すか」についての意図(或いは意図せざる想い)が垣間見えることは明らかである。
 狂気の瀬戸際とも言うべきガンギマリ道を歩んできたアウトサイダーのロックンロールであることに変わりはないが、このアルバムの聴き手は筆者のようなスペース・ロック狂いに限定されないと断言出来る。The Brian Jonestown MassacreやSpacemen 3の名前も知らないような、もっと幅広い層に聴かれることが望まれる。

 蒼白の「イクリプス」を通り抜けて疲弊したボビーが、淋しげな声でその心象を音楽化しながらも、これ程までに優しく「歌う」ことに集中できた理由とは一体何なのだろう。
 “Only You”、“Lonesome Bulldog”、“Dance Alone”、“Love Is a Disease”、“Drinking Song”……今なお現役の名曲“Isolation”(UK盤『Phoenix』に収録)を筆頭に、ずっと憂鬱なロンリネスの歌を生み出し続けている彼の面持ちが窺えるタイトルが並んでいる。しかし、楽曲の色彩からは、どうしたわけか、病的な精神状況よりも寧ろ、天国と地獄とを散々行ったり来たりしてようやく「路上」に着地出来た一人の男の「安楽」、もはや外的な力に振り回されることなく、好きな時に好きなだけのサイケデリア――かの至福のひと時と戯れることが出来るようになった「強さ」や「余裕」が、深く読み取れてしまうのだ。
 恐らくは、幾度もの再編成を経て、ボビーの精神世界に付いて来れる悪友たちに出遭えた証拠なのだろう。筆者も彼を支える今のメンバーが好きである。

 そんなボビーの歌声はいつも憂いを帯びている。気が滅入るようなこの日々に持って来いだ。我々も、休息の一時にお気に入りの写真集や漫画本を開くかの如く、禁断の魔術(今一度連中の名前を思い起こせ!)であったはずの「サイケデリック・ロック」を躊躇いなく耳から流し込んで、擬似的に安楽死することが出来るはずだ。本作はそういう力を持ったアルバムであると筆者は考える。
 情念は一枚岩ではない。果てしない憂鬱と疲労に全身を縛り上げられながらも暗闇の中で一人安らかに眠るための心地良い隙間を見つけ出し、強烈な快感の真っ只中にあってさえ襲い来る得体の知れない不安を拭い去ることは叶わず、現実逃避をしようにも必ず逃げ道を塞ぐ何かが自分の中から溢れ出し、人間に対する拒絶心に駆られつつも何処か寄辺ない気持ちをどうしても否認することが出来ない……。『Songs From The Pale Eclipse』はそのような複雑極まりない情念を、歌の中で見事に混じり合わせて束ねる一枚だ。そのまま死ねそうなほど心地よく、同時に全身を掻き毟りそうになるほど物淋しい。さながら我々の掴み難き心をありのままに映し出す、よく磨かれた鏡のよう。
 「サイケデリック・ロックは解らない」と言う人にこそ、是非このアルバムを手に取って欲しい。「時代遅れの神秘家じみたメンタリティ」、「オプティミズム一辺倒のおめでたい音楽ジャンル」、「気狂い共の世迷い言」、このアルバムはそういった偏見を打ち破ってしまうだろう。本作はズタボロになっていく我々の身に優しく寄り添いながら、桃源郷に続く「穴」をチラリと覗かせてくれる。そのまま人々がアッチの世界へ引きずり込まれてしまうか否か。そこまでは解らないし、筆者の知ったことではない。

 幸か不幸か、どれほど強烈な体験が自己意識を揺さぶったとしても、決して唯一無二の”You”と同一のものとなることは有り得ず、目を離せば迷子の“Lonesome Bulldog”に成り果てる――か弱き「(ego)」。あまりに脆く頼りないコイツが、忘我体験の愉悦や耐え難き絶望、狂気じみた夢想さえも手中に収め、全てを意のままに咀嚼する時、その居直りの瞬間こそが我々の世界享楽の始まりなのだ……などと語るのは持論の繰り広げ過ぎだろうか?
 いずれにせよ筆者はこの地に足の着いた享楽主義に全力で拍手を送る。彼らの才能は間違いを犯したことがない。次にどんな奇作が現れてもそれはそれで好き放題に賞味してやろう。俺はザ・ウォーロックスを死ぬまで俺のやり方で聴き続けたい。君もどうだ。



佐藤直哉






【参考リンク】

◆ The Warlocks: Songs From The Pale Eclipse (Official Album Stream)



◆ The Warlocks - Only You (Single)



◆ The Warlocks "Lonesome Bulldog" (Official Video)



◆ Songs from the Pale Eclipse - The Warlocks - Bandcamp
https://thewarlocks.bandcamp.com/album/songs-from-the-pale-eclipse-2
※再生回数制限あり


◆ FLAUNT(Bobby Hecksherのインタビュー記事)
http://flaunt.com/music/warlocks-premiere/





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